
発売日 | 202506 |
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定価 | 9300 |
著者 | 段 文傑 |
翻訳 | 監訳 向井 祐介 訳者 三好 祥子 |
ISBN | 978-4-8433-6961-6 |
ページ数 | 304 |
Cコード | 1371 |
判型 | A5 |
在庫状況 | - |
カテゴリ | 中国学術文庫, 新刊・近刊, すべて, 実用書 |
父の少年時代は苦労の連続だった。それでも真面目に学び、正義感と責任にあふれていた。中学時代は進歩的な学生運動や抗日のための宣伝活動に進んで参加したそうだ。1940年、父は重慶の国立芸術専門学校に入り、5年制の国画科で学んだ。伝統への深い愛情から、敦煌に燦爛と輝く古代文化芸術の遺跡の存在を知り、研究を心に決めたのだ。1945年、大学を卒業した父はすぐに西北で研究の一歩を踏み出し、民族文化遺産の保護研究および宣伝という仕事に身を投じた。
民族文化の神髄を深く会得するため、父は寝食を忘れ、他を顧みることなく壁画を模写した。石窟芸術の内容やスタイルの研究を通じて線描やぼかし、伝神といったずば抜けて完璧な表現手法を我がものとし、原作に忠実でありながら精神性をも捉えた模写スタイルを確立した。今に残された大小数百幅の臨本こそ、父の研究の結晶である。うち100以上の臨本は1948年南京で行われた敦煌展に、200以上が1951年北京で行われた敦煌文物北京展に出展され、その後も様々な国と地域の展覧会で展示された。父とその同僚たちは協力し、祖国の優秀な芸術遺産を保護、継承し、広めるためにその身を捧げたのだ。
数十年来、父は石窟芸術を注意深く丹念に調査して総合的かつ体系的に整理、探求し、また先人の著作を研究して大量の研究カード、ノート、論文の改定原稿を蓄積した。グループ長から所長、そして院長まで務めた父は事務的な仕事も多かった。とりわけ敦煌研究院院長時代は、昼間に院長としての仕事をこなし、夜明け前の数時間を論文執筆にあてていた。長年の苦労、夜を日に継いでの仕事によって目と内臓を損ない、手術も経験したが、それが父の意欲をそぐことはなく、かえって限りある時間を実感して仕事に邁進した。父の理論研究は石窟芸術研究の方法や視野を広げ、敦煌学研究の領域を深く充実したものにし、敦煌文化芸術を全面的に理解するための架け橋となったのである。